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人間失格

第一の手記


恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。


ポストに不在通知が入っていましたので郵便局に受け取りに行った時の事です。
駐車場に車を停める為、駐車券を取ろうと手を伸ばしたのですが寄せが甘かった為に全くもって届きません。自分はゴムゴムの実というものを食べたことがありませんので窓を全開にして身を乗り出すしか方法がありませんでした。顔を真っ赤にして取ろうとしたとき、後方の車の運転手が何やら小馬鹿にした顔で笑っているではありませんか。多少の悔しさはありましたが、待たしてはいけまいと急いで身を戻そうとするとポケットから車のキーが落ちてしまいました。慌てて車から降りキーを拾おうとしたのですが、落ちた位置を確認できていなかった為に多少手間をかけ、折角、開いたはずのバーが閉じてしまいました。自分はパニックに陥りいました。勿論、後方の運転手は憤慨しています。幸い、再発行のボタンがありましたので助かりましたが後方に車が4,5台並んでいました。


第二の手記
車を停めるだけというのに琵琶湖ほどの脇汗をかいてしまい、この時からすでに“死にたい“という気持ちでいっぱいでしたが自分は郵便局でも罪を犯してしまうのです。
近年、コロナウイルスが流行し、室内に入ると体温測定とアルコール消毒を行うというということが当たり前になりつつあります。機械の指示に従い、顔を近づけると36.8と表示され「正常です」と音声が鳴りました。いつもなら36.1℃ほどなのですが駐車の件で身体が火照っていたのでしょう。内心は“正常”ではなかったのですが、なんとか郵便局に入ることが出来ました。すると少し離れたところにアルコール消毒を行う機械があったので両手をかざしました。しかし、どういう訳か機械から消毒液が噴射されません。少し手を離してみたり動かしたりと試みたのですが一向に反応しないのです。故障かと首をかしげていると後ろから若い女がクスクスと笑いながら「これ、QRコード読むやつですよ」と声を掛けてきました。壊れていたのは自分の脳だったのです。郵便局を出る頃には脇汗がカスピ海ほどになっていました。


第三の手記
車に戻った時には自分の生涯を振り返っていました。今まで順風満帆とは言いませんが、それなりに過ごしてきました。人並みに恋もしましたし、かけがえのない友もいます。しかし、今までこれほどまでに自分を情けない、惨めだと思ったことがあったでしょうか。絶望の淵に立ちながらも車をよろよろと発進させ今度は駐車券を通す機会にしっかりと寄せ、窓から手を出し駐車券を通そうとしました。しかし、何故かうまく駐車券が通りません。少し曲がっているからなのか、しわを伸ばしもう一度通そうとしてもなかなか通りません。すこし強引ではありますが、無理やりねじ込んでみました。すると「駐車券が違います。ご確認ください」と吐き出してくるではありませんか。駐車券を確認するとイオンシネマの駐車券で、捨てずにサンバイザーに挟んだままだった為に郵便局のものと取り違えていたのです。もちろん後方には車が列をなしていました。しかし、この時にはもう何も感じなくなっていました。人間、失格。もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
自分は今年25になります。人生100年時代。4分の1に差し掛かる頃です。最近、めっきり老けたように感じます。

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