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褒めちぎる人

会社の先輩達と朝まで飲んだ帰り、僕は家までの道を歩いて帰っていた。時刻は4時過ぎのほんの少し明るくなってきたかという時間、すると一人で何かに話しかけている人がいた。


だいたいこういう場合は世の中に対する愚痴を吐き散らしている酔っ払いと相場では決まっているのだが、その人は「すごい!」「でかい!」「強い!」などと独り言としては聞き慣れない単語を発している。


しかも、その人はわざわざ自転車を停めて、何やら電柱を見ながら言っているではないか。


まさかとは思ったが、そっと観察しているとやはり電柱に対して言っている。
昨今、ジェンダーレスが当たり前になりつつあり、同性の恋愛がそれほど珍しくない時代ではあるが、生物間の垣根を超えて、無機物との恋は聞いたことがない。


いや、そう言えば、第74回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した「TITANE チタン」という映画は車を異性として扱い、子供まで授かるという内容のものであったが、それはあくまで映画の話で、しかもジャンルで言えばホラーに属するはずである。


まさか、現実でそういうシーンに出会うとは思っても見なかったが、未だにその人は「かっこいい」などと一生懸命に電柱を口説いている。


ただ、もちろん、電柱は何も言わない。そっと佇んでいるだけ。なんとも不憫に感じ、僕は酔いがさめていないせいもあり、口を開けずに甲高い声で「ありがとう」と言ってしまった。


その瞬間、その人がばっと振り向き、僕の方を見てきたので僕はやばいっ!と思い、とっさに地面に咲いていた雑草に「ありがとう」「会えて嬉しい」などと、その人と同じように話しかけて誤魔化とした。


すると、僕とその人とのちょうど間にある家からゴミ袋を持ったお婆さんが出てきて、雑草に話しかける僕と電柱に話しかける人を交互に一度だけ見て、そっと部屋に戻って行った。


きっとそのお婆さんは全てのものと恋愛できる未来に来てしまったと思ったんだろうな。

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