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進め!てんとう虫のボート

「アヒルのボートに乗ると別れるらしよ」
当時、付き合っていた彼女に言われた。ホントは乗ってみたかったけど僕たちはアヒルのボートを眺めることしかしなかった。優雅に池を泳ぐアヒルたちを見て、いつか僕たちに子供が出来きて家族となったとき、またここにきてこのボートに乗ろう。と淡い約束をした。


そして僕は今、ボートに乗っている。一人で。
先日、職場の女の子に「一緒にアヒルのボート乗らない?」と聞いたら「嫌ですよ。付き合ってもないのに」と言われたからだ。
付き合ってないからいいんじゃないかと思ったが、さすがにたいして仲よくない子をいきなり誘うのは無茶だったか。
仕方がないので一人でボートに乗ることにした。来てみるとその公園のボートは充実していてアヒル以外にもてんとう虫のボートもある。
せっかくなのでてんとう虫に乗ることにしてボートの近くで作業しているじいさんに声をかけた。
「てんとう虫30分でお願いします」
すると、僕の顔を見ずに「二人?」とぶっきらぼうに聞いてきた。
僕が「一人です…」と答えると「はあ?一人?」と驚いた顔で振り向いた。そしてもう一度、「はあ一人…」と呟き僕をてんとう虫に乗せた。


別にいいじゃないか。一人だって。ちょっと腹が立ったので
てんとう虫でしゃしゃり出てサンバにあわせて踊りだしてやろうかと思った。


そして、じいさんは僕を乗せたてんとう虫のボートを強めにキックして池に放った。


出航。


パタパタとペダルをこぎ、池を進むと思った以上にアヒルがいる。わりとカップルで乗っている人が多い。そして、毎度、すれ違うたびに、え?という顔をされる。
「え?ロン毛が一人でてんとう虫こぎよるわぁ~」と言わんばかりに。
僕はその都度、心の中で“別れろ!”と強く念じ、そお~っとその場から離れた。


しかし、昼間という時間帯のせいもあってかわりとアヒルが多い。僕には逃げ場はない。
どこに行っても白い目で見られる。完全にみにくいアヒルの子状態。まあ、てんとう虫だけど。
そんな時、アヒルに乗った女の子に「あの人一人で乗ってる~」と指をさされた。
すぐさまお母さんが「やめなさい」と手をはたいたが、もう手遅れ。僕の心は完全に崩壊した。


まだ10分しか経ってなかったが僕は回れ右をしてじいさんが待つ停泊所に向かって強くペダルを踏み込んだ。

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