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よろしくお願いします!

ノウナシカオナシ

期待していた反応が得られないときがある。
社会人になってからというものよく感じるようになった。
真面目にやっても怒られるときもあるし、感謝してもらえると思っても何も言われなかったり…。それは相対関係にあり、期待が大きいほどショックも大きい。


そういえば僕が初めてできた彼女のアパートに泊りに行ったときもそうだった。
当時の僕は女性と言うものを何も知らない純粋無垢な19歳。
このお泊りデートで僕はついに女性を知ることができるかもしれないと淡い期待をしてきた。


これまでの人生、どんなにきついことがあっても女性を知るまでは死ねないと思ってきた。
インフルエンザで40度近く熱が出たときもまだ死ねない。まだ僕は女性を知らない。死んでたまるかと心のなかで唱えていたくらいだ。


しかし当時の僕はどうやってそういった行為に持ち込むのか何も分からないでいた。


そこですでに大人への一歩を踏み出していた友人にアドバイスを貰いに行くことにした。


すると友人は得意げに
「いいか?ドキドキが大事なんよ。」
「サプライズとかで雰囲気をつくるわけ。」
「まぁ、これも勉強だわな。自分で考えて行動してみ?」
とわりと抽象的で上から目線な回答をよこしてきた。
まず、Yahoo知恵袋でベストアンサーは貰えないだろう。



仕方がないので自分なりに考えることにした。
しかし、サプライズってなんだろう?
そういや英語の授業で"surprise"=驚かせると習った。
なるほどわかってきたぞ。びっくりさせてドキドキさせればいいんだな。


そこで僕はある考えを思いついた。
彼女がお風呂に入っている間にこっそりカオナシの格好をして驚かせよう。女の子はみんなジブリ大好きだしきっと喜んでくれるはず。すぐさまネットでカオナシのコスプレセットを購入した。


そして、運命のお泊りデートの日。適当に昼間遊んで夜は彼女の手料理をご馳走になった。順調にことは運んでいる。バックにカオナシのコスプレセットが入っていることもバレてない。
先にシャワーを浴びて髪を乾かしていると、「じゃあ、私もそろそろお風呂に入ってくるね」と風呂場に向かった。


ついにこのときが来たと思い、シャワーの音が聞こえたのを確認してすぐさまカオナシの格好に着替えて部屋の電気を消し、ドア付近で待機した。


しかし、女の子の風呂は長いとは聞いていたがまてどもまてども出てこない。
その日は真夏の熱帯夜だったので冷房が入っていたとて服の上から黒いマントは暑い。


気が遠くなりそうになっていたところ遂にガチャガチャと風呂から音がして、「あれ〜電気消えてる。寝ちゃった?」と彼女がそっと扉を開けた。
すると隣の部屋の明かりに照らされてカオナシの顔がうっすらと浮かび上がった。


"きゃーーーーー"


と彼女はその場にすごい勢いでひっくり返って言葉を失っている。


これはやばいと思い、恐る恐る彼女に近づくと「何がしたいの?!!」と僕を一喝した。


そして言い訳の一つも思いつかず、本家さながら「あっあっ」と声を漏して立ち尽くす僕に向かって「もう寝る!」と吐き捨て寝てしまった。


帰りの新幹線のホームで昨夜のことを思い出し落ち込んでいる僕に「どうやった?」と友人から電話がかかってきて「ドキドキはさせれたんだけど…」とすべてを話すと


「お前、どんだけバカなん?」
「サプライズって言ったら普通、プレゼントやろ?」と追い打ちをかけられ僕はホームに飛び降りて死のうかと思ったけど、まだ女性を知らないので思いとどまった。


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