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サークルの勧誘

大学に入学して間もない頃、僕たち新入生は人混みに紛れてサークルの勧誘を受けているはずだった。実際、そのように受けている学生もいた。入学してすぐに出来た友人もその一人だった。

「お前サークル決めた?」

「いや、まだだけど…」

「俺さぁ、2つくらいからスカウト来てて迷ってんだよね」

別に人が欲しいだけでスカウトしてるわけじゃないだろと思ったが彼が

「なんかイケメンがほしいらしくてさぁ」

などと抜かしているので僕は腹が立ち

「俺もそういやスカウトされたわぁ」と嘘をついた。

「まじか!お前もか!」などとアホな友人は言葉をそのままに信じ

「ちょっとサークル覗いてくるわ!」

とせわしなく僕の前からいなくなった。


しかし何故なのだろうか。僕は地方出身で明らかに田舎者丸出しで誰が見ても新入生って感じがするのに全く声を掛けられないのだろうか。

彼が言うようにイケメンじゃないと駄目なのか?


帰宅時間になりキャンパスの外に出ると人だからりが出来ていて、「〇〇サークル入りませんか?」「ねぇねぇ君、ちょっとうちのサークル入らない?」などと賑わっており、たくさんの新入生が人集りを作っている。

まるで池に落とした食パンに鯉が群がるように…。


新入生は食パンで先輩方は鯉。じゃあ僕は何?池に浮かぶプラスチックのゴミかなにかか?


人集りを横目に僕は一人とぼとぼと家路に向かっていると、「すみません〜、一年生ですか?」とスーツを着た優しそうなお兄さんが後ろから声をかけてきた。

想像していたものとは違うもののついに僕にもスカウトが来たかと高揚した。


話を聞くとそのサークルは渋谷カープというサークルで主に渋谷を中心にゴミ拾い等のボランティア活動を行うサークルらしく、他の大学との繋がりや夏にディズニーランドに行くことを魅力としていた。


僕にとっては全く興味が無かったので丁重に断ったのだがその優しそうなお兄さんはしきりについてきた。僕は家までつけてきそうな勢いだったので「これからバイトなんで」と言い、近くのコンビニに駆け込んだ。


それから2日後にこれから大学生活を送るにあたっての注意事項を聞く講義があり、その際、友人が「俺、サークル決めたわ」「お前決めた?」と聞いてきた。

僕がまだだけどと答えると

「そういえば、スカウト来てるって言ってなかった?」

と言われたので僕は先日のことを言うか迷ったが「渋谷カープっていうボランティアするサークルなんだけど」「まぁ、入らないけどね」と言うと「そんなサークルあったかぁ?」と友人は首を傾げた。

それから僕らは講義に集中して説明を聞いているとサークルに関しての注意と言う項目でインカレサークルの勧誘というスライドがスクリーンに表示された。


その内容は大学構内に一人でいる学生に声をかけサークルに誘い、表向きは楽しそうなサークルだが実態はマルチの勧誘や宗教団体への勧誘を目的としているものらしい。

そして先生は「最近、こういう名前のサークルがうちの大学にも出入りしているから気をつけて」と次のスライドにめくった。

そこにはやはり”渋谷カープ"の名前があり、僕は友人のものすごい視線を無視することができずチラッと友人の方を向くと「渋谷カープ、ドラフト一位おめでとうございます!」

と満面の笑みで馬鹿にしてきた。


大学構内に一人でいる学生に声をかけるとかこんなしょうもないサークルの勧誘を受けて少しでも高揚したりとかなにかとてつもなく情けなくなり今にも泣き出したい気持ちになった。


そして結局、僕は渋谷カープに拾われるプラスチックのゴミだった。

不潔のグルメ

僕は気を遣いすぎてしまうところがある。

それで自分が損することもよくあることで、あのときもそうだった。

街では美味しいと評判の定食屋に行ったときのこと。

その定食屋は孤独のグルメに出たこともあるらしく店にはサインが飾ってあった。

昔ながらの古い定食屋さんで、目玉焼きと生姜焼きがのった丼ぶりがイチオシらしく、僕もそれを頼んだ。


その日は朝から何も食べていなくお腹が極限まで空いていたので、丼ぶりが来るなり、生姜焼きとご飯を搔き込んだ。


「これこれ。お腹がペコペコなときは丼ぶりに限るんだよなぁ」と井之頭五郎ばりに呟いて二口目を食べようとしたとき…


ご飯の山から波平ばりに毛が一本出ていた。

熱々のご飯の湯気でゆらゆらと揺れる毛。

まさに怒ったときの波平だ。


"ばっかもーーーーん" 


僕は激怒した。これは髪の毛ではない。

完全に縮れている。そう。アンダーヘアだ。


普通なら「すみません。毛が入ってるんですけど…」と言うところだが、なんせ僕は人に気を遣いすぎるたちでその一言が言えない。


気まずくなったら嫌だなとか、代金いりませんとか新しいものをお持ちしますとか言われてなんかすみませんってなるのもめんどくさいし、なにより謝られるとこっちが申し訳ないと思ってしまう。


それならいっそこのまま残して帰ろうかとも思ったが、一口しか食べていないので全く足りないし、一口で帰ると店の人に不味かったのかなと思わせてしまうかもしれない。


僕はその毛が飛び出ていた部分を多めに取り除き残りを食べようとした。

ただ、髪の毛ならまだしもアンダーヘアはさすがに食欲が失せる。


ふぅとため息をついて僕は最終手段を使うことにした。妄想だ。僕は人より想像力が長けていると自負している。僕にはできるはずだ。


まず、厨房では若いてすっごい美人な人が切り盛りしていると思い込む。

この丼ぶりを持ってきたのは50代後半くらいのおじさんだ。そう、厨房にはきっと娘がいる。それもものすごく美人の。いける。

想像しろ。僕は携帯で広瀬すずの画像を検索してそれを見ながら二口目を食べた。


一瞬、丼ぶりを運んだおっさんの顔がよぎる。振り払え!と自分に言い聞かせ、3口目、4口目と僕は食べ続けた。


味はあまり感じなかったがお腹いっぱいにはなった。


もう来ないだろうなと思いながらお会計しに行くと厨房から「はいはい。どうもぉ。ありがとうねぇ」とヨレヨレのおばあさんが出てきた。


一瞬、気を失いそうになりながら「厨房は一人で?」と聞くと、「そうねぇ息子と二人でねぇ」と言われた。ということは80くらいか…


僕はお腹から逆流するものを感じながら店を出た。

進め!てんとう虫のボート

「アヒルのボートに乗ると別れるらしよ」
当時、付き合っていた彼女に言われた。ホントは乗ってみたかったけど僕たちはアヒルのボートを眺めることしかしなかった。優雅に池を泳ぐアヒルたちを見て、いつか僕たちに子供が出来きて家族となったとき、またここにきてこのボートに乗ろう。と淡い約束をした。


そして僕は今、ボートに乗っている。一人で。
先日、職場の女の子に「一緒にアヒルのボート乗らない?」と聞いたら「嫌ですよ。付き合ってもないのに」と言われたからだ。
付き合ってないからいいんじゃないかと思ったが、さすがにたいして仲よくない子をいきなり誘うのは無茶だったか。
仕方がないので一人でボートに乗ることにした。来てみるとその公園のボートは充実していてアヒル以外にもてんとう虫のボートもある。
せっかくなのでてんとう虫に乗ることにしてボートの近くで作業しているじいさんに声をかけた。
「てんとう虫30分でお願いします」
すると、僕の顔を見ずに「二人?」とぶっきらぼうに聞いてきた。
僕が「一人です…」と答えると「はあ?一人?」と驚いた顔で振り向いた。そしてもう一度、「はあ一人…」と呟き僕をてんとう虫に乗せた。


別にいいじゃないか。一人だって。ちょっと腹が立ったので
てんとう虫でしゃしゃり出てサンバにあわせて踊りだしてやろうかと思った。


そして、じいさんは僕を乗せたてんとう虫のボートを強めにキックして池に放った。


出航。


パタパタとペダルをこぎ、池を進むと思った以上にアヒルがいる。わりとカップルで乗っている人が多い。そして、毎度、すれ違うたびに、え?という顔をされる。
「え?ロン毛が一人でてんとう虫こぎよるわぁ~」と言わんばかりに。
僕はその都度、心の中で“別れろ!”と強く念じ、そお~っとその場から離れた。


しかし、昼間という時間帯のせいもあってかわりとアヒルが多い。僕には逃げ場はない。
どこに行っても白い目で見られる。完全にみにくいアヒルの子状態。まあ、てんとう虫だけど。
そんな時、アヒルに乗った女の子に「あの人一人で乗ってる~」と指をさされた。
すぐさまお母さんが「やめなさい」と手をはたいたが、もう手遅れ。僕の心は完全に崩壊した。


まだ10分しか経ってなかったが僕は回れ右をしてじいさんが待つ停泊所に向かって強くペダルを踏み込んだ。