おばあさんとソフトクリーム
以前、とある公園の売店でアルバイトをしていた。
売店といってもお菓子やおもちゃの販売の他にロコモコ丼や牛丼、カレー、パスタなど食事ものも提供していた。
売店は土日は忙しいのだが平日はとても暇で、いつもぼっーと外を眺めていた。
雨が降るとお客さんは一日に4人ほどで時が止まっているのでないかと錯覚するほど時間が経つのを遅く感じた。
そんな売店に毎週土曜日に必ず来ると言われているおばあさんがいた。
そのおばあさんは一人で来て、ソフトクリームのバニラを注文する。
毎回決まってソフトクリームを頼むのでソフトのおばあちゃんと呼ばれていた。
僕が初めてソフトクリームを作ったのもそのおばあさんが注文したものだ。
その日は2月のとても寒い日で雪が降っていた。
雪が降る日にソフトクリームを注文する人はまずいない為、ソフトのカップ(バニラが入っており、それを機械にはめ押し出すもの)がガチガチに固く、その上、初めて作るため大変不格好なソフトクリームを作ってしまった。
ピサの斜塔よりも遥かに傾いたソフトクリームを恐る恐るそのおばあさんに差し出すと今にも泣き出しそうな顔で受け取った。
とても悲しそうに震えながら食べていた。
それから夏が来てたくさんのお客さんがソフトクリームを頼むようになり、練習する機会が増えた。
僕はあのおばあさんの笑顔を見るため率先してソフトクリームを作った。
そして、あの雪の日から5ヶ月ほど経ち僕は上手にソフトクリームを作れるようになった。
しかし、毎週来るはずのおばあさんはあの日以来ずっと来ていなかった。
バイトの仲間にはお前が下手なソフトを作ったから来なくなったんだと罵られていた。
僕は何としてももう一度、あのおばあさんにソフトクリームを作り、成長した姿を見せたかった。
そして時は流れ、大学卒業を機にアルバイトを辞めることになった。
最後の出勤日、やはりあのおばあさんのことが気になっていた。
すると、お昼ピークが過ぎた2時頃になんとそのおばあさんが来たのだ。
奇跡だと思った。そしてバニラソフトクリームの注文が入り、僕は緊張しながらも一生懸命ソフトを作った。
バイトの仲間も僕を見守る。
「膝使え!膝!」とママさんバレーで言いそうなアドバイスを隣でしていたが僕は集中していた。人生のターニングポイントだとも思った。ここで最高のものが作れればこの先の人生も上手くいくと…。
そして僕の作ったソフトクリームは最高の出来だった。
バイトの仲間も満足そうな顔で「行って来い!」と僕を送り出し、ついに僕はおばあさんにソフトクリームを手渡した。
無表情だったおばあさんの顔が満面の笑みに変わりとても幸せそうにソフトクリームを受け取った。
(あなたのおかげでここまで成長できました)心の中でそう呟いた。
とてもとても温かい日だった。
喜びがソフトクリームとともに溶け出した。