泣く男
コンビニエンスストアの前で泣いている人がいた。
午後6時の出来事だ。
その人はうずくまって大声で泣いていた。
大人だ。
行き交う人がその人に注目する。
僕もその一人だ。
しかし、なぜかその時、この人に声を掛けたらどうなるのだろう…と思った。
「大丈夫ですか?」
気がついたら声をかけていた。
その人は急に顔をあげてニヤっと笑い、元気よく「ありがとう!」と言った。
"怖っ!"と言ってしまった。
大脳を通さずにこの言葉を発していた。
画鋲でチクッとやられたときに出る
"痛っ!"と同じ原理だ。
その男は外国人のようだった。アラブ系のような顔立ちで鼻が異常に高い。
そして酒臭かった。
なぜ泣いているのか聞いても大丈夫というだけなので通り過ぎることにした。
すると「ちょっと待ってください!」と呼び止められた。
振り返ると「ありがとう!」と再び言われた。
心配されたのがよほど嬉しかったのだろう。
僕は少し微笑み、頭を下げ、再び歩き出した。
後ろから急にあの男の大きな泣き声が聞こえた。
「怖っ!」と僕は再び言った。
今度は大脳を通して。