奇人と言われる人がいる。
ゴキブリを食べたり、全裸で奇声を上げながら走り回ったり。そのレベルの奇人を僕は見たことがないが、僕の周りにはものすごくスケールの小さな奇人がいる。
たまたま見つけたラーメン屋に行った時、僕の友人は真っ先にコショウを入れた。一見、どこがおかしいのか?と思うかもしれないが、僕の友人はそのラーメンを一度も食べたことがないのにも関わらず、箸を割る前にコショウを入れたのだ。
僕には分からない。
例えば、一口食べてみて、「あれ?味が薄いな」と思ったり、途中で味に飽きて、「味を変えたいな」と思った時にコショウを入れるのであれば理解できる。でも彼は真っ先に入れたのだ。
そこで僕は彼に「にんにくチューブもあるけど入れないの?」と聞いた。すると彼は「あぁ」と言ってにんにくチューブをぶりぶりぶりっと入れた。
わかるかな?その店にあったにんにくチューブはよくスーパーで売っているピンクのキャップを外して入れる細長いチューブのもので、普通、人差し指と親指でチュッと出すものなのだが、なんと彼はホイップクリームを絞り出すが如くほぼ全ての指を駆使してぶりぶりぶりっと出したのだ。
もはや、彼のラーメンは原型の味を留めてはいない。彼にとってはどうだっていいのだ。そこにあったから入れた。多分、それだけのことなのだ。
僕はラーメンを食べ始めた友人に「どう?美味しい?」と聞いた。すると彼は「普通かな」と答えた。
きっと彼はどんなラーメンを食べてもコショウとニンニクの味がするいわゆる普通のラーメンになるのだろう。
そんなことを一人思って僕もラーメンをすすった。