趣味とコレクション

よろしくお願いします!

小さな奇人

奇人と言われる人がいる。


ゴキブリを食べたり、全裸で奇声を上げながら走り回ったり。そのレベルの奇人を僕は見たことがないが、僕の周りにはものすごくスケールの小さな奇人がいる。


たまたま見つけたラーメン屋に行った時、僕の友人は真っ先にコショウを入れた。一見、どこがおかしいのか?と思うかもしれないが、僕の友人はそのラーメンを一度も食べたことがないのにも関わらず、箸を割る前にコショウを入れたのだ。


僕には分からない。


例えば、一口食べてみて、「あれ?味が薄いな」と思ったり、途中で味に飽きて、「味を変えたいな」と思った時にコショウを入れるのであれば理解できる。でも彼は真っ先に入れたのだ。


そこで僕は彼に「にんにくチューブもあるけど入れないの?」と聞いた。すると彼は「あぁ」と言ってにんにくチューブをぶりぶりぶりっと入れた。


わかるかな?その店にあったにんにくチューブはよくスーパーで売っているピンクのキャップを外して入れる細長いチューブのもので、普通、人差し指と親指でチュッと出すものなのだが、なんと彼はホイップクリームを絞り出すが如くほぼ全ての指を駆使してぶりぶりぶりっと出したのだ。


もはや、彼のラーメンは原型の味を留めてはいない。彼にとってはどうだっていいのだ。そこにあったから入れた。多分、それだけのことなのだ。


僕はラーメンを食べ始めた友人に「どう?美味しい?」と聞いた。すると彼は「普通かな」と答えた。


きっと彼はどんなラーメンを食べてもコショウとニンニクの味がするいわゆる普通のラーメンになるのだろう。

そんなことを一人思って僕もラーメンをすすった。

僕の直感

恐ろしく直感が働く時がある。


授業中、先生が「この問題を、そうだなぁ〜」と言った瞬間にビビッと来て、当てられる!と思う。すると案の定、僕が指名される。というこがよくあった。


そして今日、電車に乗っていると、ものすごく太った派手なピンクのパーカーを着た女性と目が合った。その瞬間、ビビッと来て、隣に座られる!と僕の直感が働いた。案の定、その女性はのそのそと僕の座席に近づいて隣にどしんと座った。


僕の乗っている電車は横向きのシートではなく、バスなんかと同じ縦向きのシートなので、僕の座席の余ったスペースを余すことなく使い座られた。

もしテトリスなら僕らは一瞬で消えてしまうほどの密着度だった。


少し腹が立ったが、その人が申し訳なそうに「すみません…」と言い、体を出来るだけ通路側に出して配慮してくれたので僕もアフリカオオコノハズクばりに体を細めてスペースを作った。


隣に来られて気がついたのだが、思ったより歳をとっているかもしれない。格好が若かった為、30代前半くらいかと思ったが少し白髪が混じってる。そしてなにやらカバンをあさくり携帯を取り出した。するとその携帯はなんとガラケーだった。僕は思った。確実に歳をとっている。

今時、若者はガラケーなんか使わない。そんな奴、ニホンオオカミくらい珍しい。そしてその女性はメールを打ち出した。体を通路側に傾けている為、画面が僕の視界に入ってくる。「今、終わりました。よろしくお願いします。」とデリヘル嬢のようなメールを送信してカバンの中に携帯をしまった。するとトゥルン♪というiPhoneの通知音が鳴り、その女性はさっきしまったばかりの携帯を取り出そうとした。その動きのせいで僕にボコボコ体がぶつかるので心の中で「いや、どう考えてもあんたのじゃないだろ!」と思っているとやっぱり違って、その人は携帯を何度かパカパカさせ、僕にボコボコ当たりながらまたカバンにしまった。


ところでこの人は何をしてる人だろうか。

そんなことが気になり出した。やっぱりそう言う専門の風俗嬢?その割にはあまり容姿を整えているようには思えない。そんなことを考えながらチラッと隣を見ると頬杖をついてる手の小指の爪だけが異常に伸びている。


僕は思った。絶対、現場の人間だ。僕も工場で働いていた時、よく小指の爪だけ伸ばしている人を見かけた。その人はなんか機械の作業の時にやりやすいとかなんとか言っていたはずだ。

ただ、この体型で現場作業が出来るのか疑問だったが、電車を降りる際、「はぁ〜行きたくねぇ〜」とちっさい声で呟いたので、僕の直感は当たっていると思う。

楽器遍歴

 僕は歌を歌うことが苦手だ。いわゆる音痴というやつで、カラオケに行った際には他の人は音階のバーが綺麗になぞられていき、途中、こぶしか何かの記号が出てキラリっと光ったりするのだが、いざ僕がマイクロフォンに声を吹き込むと音階のバーが僕と同じ極の磁力を帯びているのかと思わせるほど見事に反発しあう。


バラバラに散らばった音階を眺めブルーになり、さらに平均点を大きく下回る点数に泣きそうなる。その為だろうか、僕は楽器を弾く人にものすごく惹かれる。生まれ変わったらバンドマンになって「振られたことないから失恋ソング書けねぇー」って言うことが夢なくらいだ。


 そんな僕は昔から楽器に手を出しては諦めてきた。

 最初はオカリナを買い、音を出すことができずに断念。そしてハーモニカなら音を出せると思ってハーモニカを購入するも吹いたり吸ったりと音は出せるが思ったより複雑で断念した。

 この時に僕は音楽を諦めようかと思ったが、そんな時、アフリカのどこかの民族が大自然で太鼓のようなものを叩いている動画を見た。その瞬間、これだっ!と思い早速、調べるとその楽器はジャンベというものらしい。


 特に音階とかもなく、思いのまま好きなリズムで自然に合わせて叩くっぽいので即メルカリで購入した。届くなり早速、叩いてみるとパンパンパンっと軽い反響音がなり、ついに僕にピッタリの楽器を見つけた!と興奮した。


 ただ、狭いアパートの中でパンパン叩いているとかなりうるさい。他の住民に気を遣って思いっきり叩けない。仕方がない。やはりジャンベは大自然の中で思いっきり叩いてなんぼや!と僕は一人、滝のある山の中にジャンベ片手に入って行った。そして滝の近くの岩に腰かけ思いのままにジャンベを叩いた。リズムもへったくれもない。ただ、無心で叩き続けた。


 そしてふと顔を上げるとご年配の方が僕の近くに立っていた。そして小さい声で「あまり迷惑にならないようにね」「何人か引き返してるから」と優しく注意をしてくれた。

 僕は目の前の滝のような汗をかき、「すみません。演奏会が近くて…」と嘘をつき、そそくさとジャンベを担いで帰宅した。


 今、ジャンベの上にはとても可愛い植物が飾られている。