趣味とコレクション

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額の中のナポレオン


僕の額にナポレオンが産まれた。
革命という名の旗を引き下げ、我について来いと言わんばかりの態度を示す。


そう。僕の前髪は日々後退して行き、ナポレオンの進軍を止められない。
もともと僕の額(領土)は広かった。
生まれつき豊かな土地を手にしていたはずだ。思春期には大きなニキビも育ったあの土地だ。
それなのになぜ?ナポレオンは領土を拡大しようとするのか。


何が彼を突き動かしているのか。
おそらく理由などないのだろう。ただ、自分の運命(遺伝)に基づき、彼は進軍しているのだ。


それならばこちらにも考えがある。新兵器で対抗するしかない。
風呂上がりに育毛剤を投入し、ナポレオンの進軍を止めるまでだ。


しかし、半年ほど続けていたが、やはり前髪は徐々に後退している。
恐るべしナポレオン。さすがは皇帝まで上り詰めた男。
やはり君の辞書に不可能という言葉はないのかもしれない。


僕はこの先、地道な戦法でこの戦争を長引かせることしか出来ないのであろう。


そしていつの日か僕はこの戦争に完全に敗北し、落ち武者になるはずだ。

レジでの失態

スーパーでレジに並んでいたら、アルバイトの若い女の子が僕の前のお客さんの会計に手こずりすごく待たされた。
僕の番が来た時に「お待たせしてすみませんでした。」と謝られたがその顔があまりにも必死だったのでとてもかわいそうに思えた。


僕も大学生の頃、コンビニでアルバイトをしていたのでレジの大変さはよく分かる。特に慣れないうちはとんでもないミスをしてきた。


初めてお昼のシフトに入った時、その日は僕の働いていたコンビニの近くで工事があり、昼時になると大勢の工事現場の人が入ってきた。またその日は暑い夏の日で、工事の人達はイライラしており、とても恐ろしく僕は並ばれる前から嫌な予感がしていた。


そういう勘は当たるもので工事の人達はいっぺんにレジに並んできた。しかも最悪なことに隣のレジにおばあさんが宅急便を持ってきたため、僕一人でその人たちを捌かないといけない状況に陥った。


電子レンジをフルに活用するもどうしても時間がかかる。工事の人も休憩時間に限りがあるらしく、並んでいる間、ますますイライラしていた。その中でも特にイライラしている人がおり、先ほどから僕をにらみつけて舌打ちとため息でビートを奏でている。


温めの3分間が永遠に感じ、僕はプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。


すると、僕をにらみつけていた人が急に割り込んできて「ざるそばだから先に会計しろ」とレジにざるそばとお茶を投げ出してきた。あまりの形相に僕は震えあがった。


今、対応しているお客さんのを保留にして新規に対応すればいいのだが、なんせ入ったばかりでそういうものに慣れていない。手こずりながらもなんとか操作して保留にしたのだが手際の悪さに工事の人は怒りの頂点に達していた。その表情を見た時、僕は頭が真っ白になった。


そしてざるそばを縦に入れた。お茶と同じように縦に入れた。
すると「お前絶対わざとだろう!!」と胸ぐらをつかまれた。


もうそのあとのことは覚えていない。
店長が飛んできて謝っている姿をぼんやりと覚えているが、事が過ぎた後、「大丈夫だからら気にしないで。辞めるなんて言わないで」と言われたのでおそらく辞めようとしていたのだと思う。


そんな、経験を持つ僕が女の子に言った「大丈夫。気にしないで」はさぞ、説得力があったことだろう。

何かを待つ人

バス停に立っている人は基本的にバスを待つ人だ。
目当てのバスが来たらそれに乗り、消えていく。
以前住んでいたアパートの近くにバス停があった。時刻表の書いた柱があるだけの椅子も屋根もないバス停だ。辺りには藪が広がっており、本当にこんな場所にバスが来るのか?と思わせるようなところだった。
そんなバス停に毎日立っている人がいた。僕が帰宅する19時過ぎにスーツを着たおじさんが立っていた。しかも、道路に背を向け、うつむき加減で藪を見つめいる。


最初は、変な人がいるなくらいにしか思わなかったが、それが毎日いるとなると少し薄気味悪くなってきた。帰宅時間にも多少の差はあるのだが、その人は微動だりせずに背中を見せて必ず立っている。


本当にこの人はバスに乗るのだろうか。僕はそのことがどうしても気になってしまい帰宅後、その人の隣でバスを待ってみようかとバス停に向かった。


すると、そのバス停には誰もいなかった。そしてそのバスの時刻表を見ると最終便は18時半だった。僕は急に恐ろしくなって走って家に帰った。


そのおじさんは一体、何を待っていたのか。果たしてその人は本当に存在していたのか。
あの薄気味悪い背中を思い出すと怖くなるので、今はあの藪でツチノコでも探していたのだろうと思うようにしている。